三菱一号館美術館<奇跡のクラーク・コレクション>を鑑賞する
2013年2月8日 金曜日 晴れ

 前評判にたがわず素晴らしい絵画の数々だった。
一時間半をかけて七十三点を鑑賞しおわった後のなんとも言われぬ満足感いっぱいの疲労感。
久々に「印象派」の作品、それも今まで観たことのない作品の数々に酔いしれてしまった。

 三菱一号館美術館で明日から始まる<奇跡のクラーク・コレクション=
ルノアールとフランス絵画の傑作>の内覧会とヴェルニサージュにお招きいただいた。
有楽町から丸の内へのビル群を吹き抜ける春一番ともいえる強風を受けて髪がぐしゃぐしゃになって、
三菱一号館美術館の中庭のカフェでAさんと待ち合わせ。カフェには有名人の顔もあちこちに、、、。

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(なか通りから丸の内方面を)

a0031363_26749.jpg (カフェのなかから赤煉瓦の美術館を)

a0031363_272595.jpg (数段上ってエントランス)

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昨年暮れにシャルダン展を鑑賞したばかりで、なんだか明治時代に建てられた赤煉瓦レプリカの三菱一号館がなんだかとてもなつかしい。

http://keico.exblog.jp/17070655/
2012年12月27日 木曜日 晴れ
三菱一号館美術館でジャン・シメオン・シャルダン展を観る

 平素とは違い受付の机があってかなり混み合っていた。
近くにいらした高橋館長に久しぶりにお目にかかることができてご挨拶できた。

まず順序に従って最初の部屋に入った。静かなトーンのコローの作品が数点並んでいる。どれも初めて生を目にする作品で私の知るカミーユ・コローではない。
イタリアに何度か滞在した彼のローマの作品、穏やかな<水辺の道><柳林の洗濯女たち>など。
目がかなり悪くなっているから、少し遠くから全体をみて、さらに近くまでよってもう一度見直す。
あまり広くないこの展示室でのこのスタンスが実にスムースで心地よい。
この美術館は二階と三階が展示室で二十ほのど小部屋に別れていて、どの部屋もほんの数点の作品だけが
かけられていて、もしその部屋に一人だけいると、まるで自分が作品達に優しく囲まれ時には
見つめられているような錯覚にさえ陥ることがある。

コローの「ボロメ島の浴女たち」の前で静かにしばらく立ち止まってしまった。
この世のものとは思われない不思議な光と影と樹木のもとに二人の裸婦。
印刷では見ていたこの作品の本物に魅せられてしまった。
これぞ美術展!
そしてこれらの作品のコレクターであったスターリング・クラークと妻フランシーヌとは
どんな人であったのだろうと興味がどんどん湧いてくる。

 今回のクラーク・コレクションは、アメリカ東部マサチューセッツ州のクラーク美術館が所蔵する
フランス絵画の名品で、これだけの数が一堂に介するのは奇跡なのだそう。
http://mimt.jp/clark/top.html
(展覧会のホームページ)

 クラーク美術館は、設立者のスターリング・クラーク夫妻が収集した作品を中心に、
質の高い西洋美術コレクションと美術関係教育施設としてで知られているが、
ニューヨークからもボストンからも三時間もかかり、日本人はあまり訪れていない。
一昨年から安藤忠雄さんを中心に行われている大規模な増改築工事に伴って、作品が世界巡回展され、
その一環として日本での開催が実現したのだという。
今回の二十二点のルノワールをはじめ、ミレー、モネ、ドガ、シスレーら印象派の傑作七十三点のうち
約六十点は日本初公開。
帰りにいただいたカタログ内の説明によると、現館長のコンフォーティ氏と兵庫県立美術館の蓑館長と
安藤忠雄さんの三人の長い間の男の友情と、廻りのサポーターの方々のご尽力で今回日本への誘致が
出来たのだと言う。(これも奇跡)
日本も文化的に凄い国になったものだ!
(これに対して政治家達の国際的な人間関係の薄さとインテリジェンスの下手さは困ったものだ)

(以下しばらくカタログとHPの説明を参照して)
 祖父と父の莫大な財産を受け継いだスターリングがパリに渡ったのは1910年。
まもなくコメディ・フランセーズの舞台女優だったフランシーヌ・クラリーと恋に落ちて
第一次世界大戦終戦直後の1919年に結婚。
幼少の頃から質の高い伝統的な絵画に囲まれて生活をしていたスターリングは、
高級住宅地の十六区に構えたアパルトマンを飾るため自身でも絵画の収集を開始した。

当初は、ルネサンス期のイタリア絵画や17世紀のオランダ絵画など比較的古い時代の
オールドマスターズを集めていたが、やがて印象派を中心とした近代絵画に注目するようになり、
彼は自身の目だけでなく、パリの文化の中心にいたフランシーヌの優れた審美眼を信頼し
二人は足繁く画廊に通うこととなり、共同で作品を選定し購入しはじめた。
クラーク夫婦のコレクションはは1914年の第一次世界大戦時も無事に乗り切り、
1945年の第二次世界大戦終戦頃には五百点以上に拡大していたという。

戦渦を恐れた彼らを救ったのは、それまで付き合いのあった画廊のオーナー達で、
何度かにわけてアメリカに船で作品を送りニューヨークの彼らのアパーメントに移されて、
<ガレリア>として自分たちと友人達の愉しみとなっていった。
時がたち彼らは自分自身の美術館を創ることを考えて非営利組織をも設立しいていたが、
七十才を超えた晩年の1950年に、今の地の東部マサチューセッツ州の地ウィリアムズタウンを選び、
クラーク美術館を開館し美術関係の教育施設をも併設し、そこが彼らの終の棲家となったのだ。
美術館の名前にはフランシーヌの名もつけるようにとの遺言があり、
通称<The Clark、クラーク美術館>は<Sterling and Francine Clark Art Institute>というのだそうだ。

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http://www.clarkart.edu/
☆Sterling and Francine Clark Art Institute


なんというロマンティックな壮大な人生を送った人たちだろう。
コレクター冥利にもつきることだろう。
フランスという美術の国と、富を残せるアメリカという国の素晴らしい融合に違いない。
二つの世界大戦を経て、ヒットラーの魔の手も逃れてこうして作品が生き残っているのも<奇跡>なのだ。

ピエロ・デッラ・フランチェスカなど、イタリア・ルネサンスのオールドマスターの作品から
近代に至るまでのヨーロッパ絵画、陶器や銀器などの工芸など、時代と地域を越えた幅広い作品を所蔵し、
百点以上の印象派絵画もあり、それらは門外不出だったのだ。
それが今こうして私たちの眼前に並ぶのはまさに<奇跡>
美術館が<奇跡のクラーク・コレクション>と謳いたくなるのも納得できる。
彼らの亡骸はかの地の美術館の正面玄関の大理石の下に眠っていると言うから、私の命が終わる前に
一度訪ねてみたいものだ。

 いくつもの部屋を順々に廻り、ミレー、ブーダン、シスレー、モネ、ドガ、ピサロ、セザンヌ、モリゾー、
ロートレック、そして見事な藍を描くジャン=レオン・ジェローム、アルフレッド・ステヴァンス、
道を渡る花束を持った婦人と子犬を描いた<道を渡る>のジョヴァンニ・ヴォルティーニと
調和豊かな陳列が続いた。

 ルノアールの作品は、<劇場の桟敷席><眠る少女><うちわを持つ少女><無邪気な少女>
<自画像>などの人物画に加えて、数点の風景画、そして今まで見たこともない静物も何点もあり、
咲きほこって今にもおちそうな赤い<シャクヤク>、紺のコンポートに盛られた緑と赤の<皿のりんご>、
赤と青の縁取りのある白い布の上に置かれたタマネギとニンニクが微妙な色彩の光の反射で光り輝く
<タマネギ>と数点しかない静物画はどれも圧巻。

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 最後の展示室では八点全作品がルノアールであり、今回のまさにページェントのルノアールを
最後で前面に押しだしての展示は見事というほかない。
(それはおそらく1955年の会館記念展ではジェロームを前面に出して、ルノアールの作品が一点だけで
招待者を驚かせたスターリングは、ルノアールや印象派の作品は先々のためにとっておこうという手紙を
残しているという、その思いも、今回展示の学芸員達はわかっていらしたのだろう)

この最後の部屋にはまず緑の中で赤い帽子をかぶり青い服をきた夫人が縫い物をいている作品。
右手壁には<自画像>が。
そして正面にはアルジェリアの民族衣装を着て鳥を右手で持ち上げてコケティッシュな微笑の少女の
<鳥と少女>が素晴らしい! 
最後の作品は<頭部の習作=ベラール家のこどもたち>。
この作品の前ではフランス大使が長いこと立ち止まって説明を聞いていらした。

a0031363_2352132.jpg (途中で中庭が見渡せる。三階から二階へ移る廊下にもいろいろ説明のパネルがかかっていた)

 印象派はとくに熱狂的に好きなジャンルではなかったかもしれない。
昔のルーヴル美術館でも、近年のオルセー美術館でも折々の展覧会でもいろいろ観ていたし、
2005年にはなんとイタリアの片田舎でバーンズコレクション特別展を特別に私たち二十数人だけで
観賞させていただいていた。
<ムーラン・ド・ラ・ギャレット>も<舟遊びの人々の昼食> などの大作もないのに、
今回のこの鑑賞後の高まりはなんなのだろう。

作品の並べ方の調和がとてもすてきなこと、そして額の調和性がとれていたことなどは、
鑑賞している途中から感じていたが、おそらく1930年代からコレクションの方向をルノアールと
印象派に変えて系統的に集め、自宅に飾っていたスターリング・クラーク夫妻の
パーソナリティーのようなものが全体に漂っていたにちがいない。
あまり堅いサブジェクトがなかったので気が張らないですんだのかもしれない、、、。
それを身近に感じたのは、音声ガイドの説明が押しつけがましくなく実に自然で、
かつ情報にあふれていたことにも寄るかもしれない。
単数番号での作品説明に加えて、22/33/44 というよなダブルの番号では高橋館長の説明や、
マネの<花瓶のモスローズ>などは黒柳徹子さんのお話が入っていて、作品を観ながら歩く歩調に
あっていたように思われる。

いただいて帰ったカタログの説明もスターリング・クラークご夫妻の生活と、
美術への情熱をつぶさに語っていて、少し小さすぎるその文字を一生懸命読んでしまった。

 この展覧会は五月まで東京で、その後に神戸にも行くという。
関西の友人達が観てくれてお話しができると嬉しいし、私ももう一度訪れたいと思っている。

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(カタログの<タマネギの>ページ。その上はカタログの表紙と裏表紙<鳥と少女>)

〜〜〜
追記*
郁子さんのコメントをいただき少し書き足します。

 シスレーも素晴らしい作品がありました。<ビ付近のセーヌ川提>
四点の内一点だけ静物画<籠のりんごとぶどう>がありましたが、これがなんとも素晴らしい!
(どこか前回のシャルダンのコンポジションを思いました)

 六点のモネの初期の<小川のがちょう>も一見稚拙な感じですが佳く描けています。
中期の<サッセンハイムのチューリップ畑>は青い空と白い雲の下の農家の小屋の前に広がる
カラフルな中ーリープ畑!

 モリゾはたった一点で<ダリア>これもイイ!

more>>>>〔印象派とは〕(美術館の説明より)
 





ルノワール、モネ、セザンヌ、ピサロ、シスレー、ドガ、モリゾなど1840年前後に生まれた
一群の若い画家たちは、美術家の登竜門とされた官展の「サロン」のあまりの保守性に嫌気がさして、
1874年4月に「画家、彫刻家、版画家などによる“共同出資会社”」と名付けたグループを結成し、
その第一回展をカピュシーヌ大通りにあった写真家ナダールのスタヂオで開いたのが初めと言われている。
「印象派展」は以後1886年まで計八回催され。

自然の光と色彩が生き生きとしたリアリティーで直接カンヴァスに写し取ろうとする
「印象派」の画家たちの試みは、革命的とも言える清新な画面の数々を生みだすことになり、
新しい時代の美を求める新興市民層を軸に多くの愛好家を得て、
やがてアメリカの企業家などを中心として世界中にコレクターを見出すようになっていきました。



by pretty-bacchus | 2013-02-08 23:59 | ♠Art&美術,詩歌,展覧会,お稽古 | Trackback | Comments(7)
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Commented by k7003 at 2013-02-11 03:27
「その部屋に一人だけいると、まるで自分が作品達に優しく囲まれ時には、見つめられているような錯覚にさえ陥ることがある。」
とても印象深い言葉で、展覧会を追体験させてくださって、ありがとう。(^^)/
神戸展、なにがなんでも観に行きます。
Commented by pretty-bacchus at 2013-02-11 16:24
k7003さん、ありがとうございます。
神戸では内装が違うでしょうから、また別の新しい発見ができることでしょうね。
Commented by 郁子 at 2013-02-11 16:34 x
シャルダン展に続いてのクラーク・コレクション展の紹介、ほんとに楽しく拝見。敬子さんの紹介文を見ていると、絵画でも写真でも「私も見てみたい」っていうワクワク感一杯になっちゃうんです。そして実際に行ってみると間違いなく見てよかったという満足感に満たされるのです。
印象派は国内外でかなり見ているので、普通でしたらそれ程見てみたいとは思わないのですが、敬子さんにかかると、すぐ乗っちゃってしまいます。文章力とその眼力・センスへの共感・信頼度なのでしょう。
それに今回のコレクションは、敬子さんでさえお初のものが多いときたら、余計興味津々です。
アップされた「劇場の桟敷席」などいいですね、気に入りました。誇張がなくとても自然で、雰囲気に包まれてしまいました。
シスレーは何が出ていたか、彼の絵は彼が晩年を過ごした川のある地を訪れてから、とても好きになりました。またモリゾーも関心があります。
あの環境と落着きのある美術館そのものも大好き。近々出掛けます。
いつも素敵な展覧会の紹介を有難う。
Commented by pretty-bacchus at 2013-02-11 17:08
郁子さん、いつも嬉しいコメントをありがとうございます。
<敬子さんにかかると、すぐ乗っちゃってしまいます。文章力とその眼力・センスへの共感・信頼度なのでしょう>
なんだかるんるんしてしまいます。
そんな風にこのブログをご覧いただきとっても幸せです。

シスレーも素晴らしい作品がありました。<ビ付近のセーヌ川提>
四点の内一点だけ静物画<籠のりんごとぶどう>がありましたが、これがなんとも素晴らしい!
(どこか前回のシャルダンのコンポジションを思いました)
六点のモネの初期の<小川のがちょう>も一見稚拙な感じ佳く描けています。
中期の<サッセンハイムのチューリップ畑>は青い空と白い雲の下の農家の小屋の前に広がるカラフルな中ーリープ畑!
モリゾはたった一点で<ダリア>これもすイイ!

どうぞお楽しみ下さい。

Commented by pretty-bacchus at 2013-02-11 17:11
郁子さんへ
ブログの文があまり長くなりますので、上記を書かなかったのですが、追記しますね。

Commented by desire_san at 2013-05-02 18:04
こんにちは。
私もクラーク・コレクション展に行ってきましたので、楽しくブログを拝見しました。
今まで見たことのなかったような作品をたくさん見ることができました。
クラーク夫妻の好みで集めたコレクションということで、今まで見た印象派
の作品とは、少し違った雰囲気の作品が多かったように思いました。
特にルノワールの作品は質、数とも見てよかったと思いました。

この美術展のルノワールの作品を中心に、感想とその魅力についてまとめてみました。
よろしかったら、読んでいただき、ご感想、ご意見など何でも結構ですから、
ブログにコメントなどをいただけると感謝します。
Commented by pretty-bacchus at 2013-05-03 01:40
desire_sanさん、クラークにいらしたのですね。
初めて観るルノアールに圧倒されましたね。

ブログ拝見しました。文献も参照なさり、素晴らしい観賞の感想を書いてらして素晴らしいです!

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