女ありて<夕げに ひとりさんまを食らひて思ひにふける >と
2014年8月19日 火曜日 晴れ

 お盆休みが明けた。
お天気に恵まれなかったお盆休みだった。
今日は朝顔はひとつも咲かずに寂しい限り、、、。
いろいろ記録が残った酷い夏だったが、もう少しの辛抱だ。
おかしなもので今日だって三十度以上あったのに、猛暑日からほんの二〜三度低いだけで、
とっても涼しいような気がしてしまう。

 昨日から蝉の声が少し変わってきた。
借景の蟬時雨は今年はことのほか賑やかだった。
日本には三十数種の蝉がいるというが、そのいくつもが今年は鳴いていたのかもしれない。
昨日からはオーシンツクツクが鳴きはじめて、やっと秋の気配がしはじめた。
<蟬時雨> とっても好きな言葉。
<蟬時雨>という藤沢周平(父が大好きだった)の長篇時代小説があった。

 サンマが初入荷というので久しぶりに魚処魚真さんへ。
お刺身でいただいたあと、もう一尾を焼いていただいて、シャブリでついばみながら、
白いご飯と燻りがっこのお漬け物で秋の<美味>をいただいた。

<さんま、さんま、さんま苦いかしょっぱいか。
そが上に熱き涙をしたたらせて
さんまを食ふはいずこの里のならひぞや。
あわれ げにそは問はまほしくをかし>

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(おとものワインは若いシャブリで、、、、)

 毎年、初秋刀魚をいただくと、佐藤 春夫の<秋刀魚の歌>を思い出す。

<あわれ秋かぜよ こころあらば伝えてよ
男ありて 夕げに ひとりさんまを食らひて 思ひにふける と。

さんま、さんま、そが上に青き蜜柑の酸をしたたらせて
さんまを食ふはその男がふる里のならひなり。
そのならひを あやしみなつかしみて 女はいくたびか青き蜜柑をもぎ来て
夕げにむかいけむ。
あわれ、人に棄てられんとする人妻と
妻にそむかれたる男と食卓にむかえば、
愛うすき父をもちし女の児は
小さき箸をあやしみなやみつつ
父ならぬ男にさんまのわたをくれむと言うにあらずや、、、>

 なんとも意味深なこのサンマの歌を作った佐藤春夫が、谷崎潤一郎と配偶者を交換した「細君譲渡事件」が
起こったのはたしか暑い夏だったと父が話していた何十年も前の夏の夜を思い出した。
谷崎潤一郎はその千代夫人とも離婚して、再婚したがまた離婚し、妻として長い間暮らしたのは
やはり他人の妻であった松子いう女性だった。
谷崎松子さんは『細雪』の幸子のモデルであり随筆家でもあった。

そのほっそりとした美しい松子夫人の最晩年にF氏邸で私は何度かお目にかかったことがある。
もう三十五年以上も前のことである。
銀ラメが入った紫色の細い縞の羽織をお揃いにあつらえていただき、
羽織裏には華やかな歌舞伎模様の裂がつかわれた(こんどタンスからだして写真を撮っておこう)。

故中村勘三郎さんの若き頃、勘九郎さん時代に、そのお揃いの羽織を着て、F氏と好子夫人に、
築地の名料亭にお招きを受けたことがあった。
漆の人間国宝(重要無形民俗文化財保持者)の山崎覚太郎もご一緒だった。
パリの駐在員から帰ったばかりの若い私が、再び日本の文化に浸り始めた頃だった、、、。
(この数前からは志村ふくみさんの染めと織りに魅了され始めていたのでした)

 蟬時雨とサンマの塩焼きで、暑い夏の思い出が甦ってきている。
脳っていったいどうなっているのだろう、、、。

 帰り道はすだく虫の音。
すでに秋がやってきているのだ。

http://ja.wikipedia.org/wiki/谷崎松子
http://ja.wikipedia.org/wiki/山崎覚太郎




by pretty-bacchus | 2014-08-19 23:58 | ♥Wine & Dineワイン&食事 | Trackback | Comments(2)
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Commented at 2014-08-21 01:39 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by pretty-bacchus at 2014-08-21 21:24
鍵コメントさま
了解です、、、、。
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